原画を描き、版木を彫り、和紙に摺る工程を経て、木版画は出来上がります。
一方向に進む直線的な流れ作業のようですが、実際には「行きつ戻りつ」の繰り返して。
作品を摺りながら、納得がいくまで原画の色合いを変えたり、版木の彫りを微修正したり。
これができるのは、全工程を自分一人が「自画・自刻・自摺」する方法だから。
浮世絵時代の伝統は、絵師と彫師と摺師の完全な分業システム。
家造りに例えれば、設計士や大工や鳶職人のように、それぞれが固有の専門能力を活かして協業するやり方。
モノ作りのプロセスなら単能工型と多能工型、どちらを選択するかの違い。
木版画の世界でも明治末期から昭和初期に「創作版画」を目指した人々が。
従来の複製技術重視を見直し、「自画・自刻・自摺」による版画表現で、美術の一ジャンルとして認知されることを目的とした運動です。
「創作版画」を志した代表的なアーティストは山本鼎や恩地孝四郎ですが、かの竹久夢二もその一人。
思うに、どんな手法やテクニックを用いようと、大切なのは「生命力の宿った作品」が産み出されることなのでしょうか。
金木犀の香り漂う季節を迎えて、庭のハナミズキも色づき始めました。