変装名人による驚きの七変化

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海の中にはまだまだ凄い変装の名人がいる。色も形もサンゴの枝に同化するピグミーシーホースは、およそ魚とは思えない風貌だが、ヨウジウオ科タツノオトシゴの仲間だ。陸上にも美しいランの花に変装して虫を待ち受けるハナカマキリがいるが、ピグミーシーホースはサンゴに近づいてきた小型甲殻類や動物性プランクトンを捕食する。タツノオトシゴ属の特徴は、オスが腹部の育児嚢で子育てすることだ。メスが育児嚢の中に産卵した後、受精から孵化、さらに稚魚が独り立ちするまでオスの仕事が続く。いわば妊娠と出産の役割をオスが担うということだ。もしも人間社会も同様の役割分担であったならば、もっと平和な世界になれるかも知れない。
次に頭足類のイカとタコの巧みな変装スキルを紹介しよう。「海のカメレオン」とも言われるコウイカはその代表だ。無脊椎動物の中で最も高い知能を持つと言われるコウイカは、周りの環境に応じて素早く体色を変化させることができる。皮膚由来で発達した高性能の眼から入った情報が皮膚の色素細胞に伝達され、変幻自在にコスチュームを変えてしまう。サンゴを見ればサンゴそっくりに、海藻に近づけば海藻に見間違うような突起物まで出せる。コウイカの仲間で最もサイズが大きいコブシメの体色コントロールはユニークだ。恋の季節を迎えたオスは、メスに寄り添う体側の色とライバルのオスを斥ける体側の色を使い分ける。メス側は求婚色にオス側は威嚇色に、その器用さには感心する。
変装名人の真打ちは、通称ゼブラオクトパス(別名ミミックオクトパス)だろう。主にインドネシア海域に生息する黒と白の縞模様の体表を持つタコだ。達人芸は「形態模写」でウミヘビ、ヒトデ、ウミウシ、イソギンチャク等々、多種多様な生き物に擬態する。写真はカレイの姿を真似たものだが、七変化どころか40種類にも及ぶ豊富な変装バリエーションを持っているらしい。単なる本能行動の次元を超えた高度な認識・記憶能力を保有しているのかも知れない。瓶のフタを開けたり、道具を使うタコも発見されており、イカとタコの潜在能力は底知れない。そういえば2億年後の地球の支配者は、高度な知性を持ったイカの子孫という生物学者の未来レポートもあった。

海の中にもカクレンボ上手が

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以前、昆虫たちの巧みな擬態能力を取り上げたが、海の中にもカクレンボが上手な生き物たちがいる。ニシキフウライウオは奇妙な風貌だが、カミソリウオ科に属するれっきとした魚の仲間だ。肉食性で珊瑚礁域の八方サンゴやウミシダに擬態し、気づかずに近づいてきた小型甲殻類や動物性プランクトン等を巧みに捕食する。次に名前も実物も見るからに恐ろしげなオニダルマオコゼを紹介する。この魚は「海底の忍者」のように、岩に擬態したり砂地に潜んだりしながら、近づいて来る獲物を待ち受ける。何もしないでじっと待っていれば、好物の餌にありつけるという食生活だ。その巧みな隠れ身の術は、時に人間にも危害を及ぼす。背鰭に強力な毒棘を持ち、誤って刺されると致命傷となる怖れがある。岩に見間違えて踏んでしまうと、ビーチサンダルやダイビングブーツも突き抜けてしまうほどの丈夫な毒棘だ。不幸にもダイバーが死亡した事例もある。
ラストはワレカラだが、知名度が低いのでご存知ない方が多いかもしれない。見た目は昆虫のナナフシとカマキリを足して2で割ったような姿だが、カニやエビと同じ甲殻類の仲間だ。住処の海藻と見分けがつかない程、上手に擬態する。名前の由来は、空気中で乾燥するとパキッと殻が割れることから来たようだ。古くは枕草子や古今和歌集にもワレカラの名前が出てくる。「ワレカラ食わぬ上人なし」という言葉もある。肉食を禁じているお坊さんでさえ、海藻やヒジキに紛れ込んでいるワレカラを知らず知らずに食べてしまうという意味だ。海中にはさらに進化した擬態能力が存在する。次回は怪盗ルパンさながらに変装が得意な海の生き物を紹介しよう。

生き物の命名に気遣い不要?

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人間は内輪社会のネーミングにはかなり気遣っているが、人間以外になると全く無頓着のようだ。前回のナポレオンやオジサンは、似ている人間に例えた呼称で済まされるが、標準和名がウマヅラハギとなると如何なものか。顔付きが馬の長い顔を連想させることから「馬面のカワハギ」と命名されてしまった。英名ハンマーヘッド・シャークも同様に頭の形状から「トンカチ頭のサメ」と見立てられた命名だ。和名はシュモクザメというが、鐘を打ち鳴らす丁字型の撞木に擬したもので同じ類だ。
確かに分かり易いネーミングだが、人間社会なら明らかにタブーとされる呼び名だろう。差別用語のカテゴリーの一つに「身体的特徴や欠陥を揶揄する表現」が含まれ、例えばチビ、デブ、ハゲ等々は他者の人格を傷つけ侮蔑する言葉だ。人間以外の生き物には「人格」など存在しないのだから、そのような気遣いは不要だということか‥‥。ちなみにハンマーヘッドの頭の前面にはロレンチーニ器官という高性能センサーが装備されている。獲物が出す微弱な電気を感知できるので、砂の中に隠れているエサでも捕食可能だ。ハンマーヘッドと名付けるよりもレーダーヘッドの方が適切だろう。
2007年、日本魚類学会は9つの差別的用語を含む32種の標準和名を改名することを決めた。その中の一つが旧名イザリウオ、新名カエルアンコウだ。魚なのに泳ぎが不得意で、海底をいざるように歩くことが旧名の由来だ。実はこの魚には優れた得意技がある。以前「ダーウィンが来た」でも放映された「魚を釣る魚」なのだ。頭から生えた釣竿のような棒にエスカと呼ばれるゴカイにそっくりな擬似餌をぶら下げて、獲物を巧みにおびき寄せる。小魚がエスカを口に入れた瞬間、驚異的なスピードで喰らい付くカエルアンコウは、イザリウオなどという名前に程遠い姿だ。この魚の「イザリ」の意味は「漁り」だという説もある。いずれにしろ魚の名前でも、差別的用語に配慮しようという動きだ。もう一例、魚類学会は「バカ」も使用禁止にして、バカジャコをリュウキュウキビナゴに改名した。魚類の「バカ」はいなくなってよかったが、鳥類に未だ残る「アホウ」はどうなるのだろうか。