閑話休題ーマダラ模様の科学

http://www.biodesign-japan.com/wp-content/uploads/sites/1887/2014/09/header20140921145144_510464846.jpghttp://www.biodesign-japan.com/wp-content/uploads/sites/1887/2014/09/header20140921145144_346006583.jpg
これまで数回、魚たちの多様で不思議なデザインを見てきたが、生き物のマダラ模様や縞模様がどのようにしてできるのかについて、科学者たちの興味深い見解を紹介しよう。今から80年程前、日本のある物理学者と生物学者たちの間で「キリンの斑」に関する大論争(大喧嘩)があった。ことの発端は当時、理化学研究所の寺田(寅彦)研究室に属していた平田森三氏が「キリンの斑模様について」と題する論文を岩波書店の「科学」に掲載したことから始まった。彼は自らの研究テーマであるガラスや粘土等の「割れ目の形態学」を応用して、動物や植物の斑模様がどのような要因にて現れるのか、大胆な仮説を提示した。キリンの斑模様は、田んぼの表面が乾いた時にできる「干割れ」とよく似ており、キリンの胎児が成長するプロセスにおいて、干割れと同様の現象が起きている可能性がある。すなわち内層部の太り方が激しくなると、表層部が四方八方に引っ張られる力を受けてヒビ割れができるという原理だ。
この論文に当時の生物学者たちが噛みついた。生物学主流の見解に反するということもあっただろうが、学問領域の門外漢による侵犯を許さないとの感情的な側面もあったようだ。よくある「素人はでしゃばるな」という話だ。生物学と物理学の関係は、今の時代においても「生物」を「無生物」と同じ次元で考えてもいいのか否か?という奥の深い問題を抱えている。この「キリンの斑論争」に決着をつけた人物が、さらに門外漢の数学者だったことも興味深い。英国の暗号解読や計算機科学で有名なアラン・チューリングがその人だ。彼は反応拡散理論を用いて、化学反応が作り出す波(チューリング波)が生物の皮膚模様を形成することを証明した。チューリング方程式の値を変えるだけで、キリンやヒョウやシマウマの模様をコンピューターで描き出すことができる。それでもその後長い間、生物学者たちはこの理論を無視し続けた。いずれ別の機会にチューリング波の存在証明に取り組む近藤滋研究室(大阪大学大学院生命機能研究科)について紹介したい。生物学と物理学の融合を目指した「生物物理学」(Biophisics)の研究成果も興味深い。いつか将来、「モノ」と「イノチ」を扱うサイエンスが、過去の機械論的呪縛から解き放たれる時代が訪れるかもしれない。