変わった名前を付けられた魚

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普段から愛称やあだ名で呼ぶことが好きな人間は、海の魚にも変わった名前を付けた。よく知られている呼称は「ナポレオンフィッシュ」だろう。その由来は頭のコブの形が、ナポレオンの軍帽に似ているということからだ。ダイバーには好まれている魚だが、意外と本名の認知度が低い。正式の和名はメガネモチノウオと言い、体長2mにもなるベラ科最大の魚だ。香港では高級魚として食用とされているが、近年は乱獲による個体数の減少が問題となっている。
次に「オジサン」と呼ばれている魚を紹介しよう。この可笑しな名前は愛称ではなく、正式登録された標準和名だ。目立つ二本のアゴ髭が「オジイサン」の髭のようだということから付けられた。英名ではヤギの髭の連想からGoatfishと呼ばれている。オジサンの髭は伊達に付けている訳ではない。この長い髭を上手に使って、砂の中の多毛類や甲殻類等の小動物を探し出して食べるための大事なセンサー機能だ。ちなみに「オバサン」という名前の魚はいないようだ。
外見・容姿に由来する前2種の呼び名に悪気はなさそうだが、標準和名を「キタマクラ」と付けられた魚は気の毒だ。仏教では亡くなった人を北枕で安置することから、「この魚を食べると北枕にされるぞ!」という意味だと言われている。フグ科の仲間として猛毒テトロドトキシンの代表者のようなネーミングだ。実はキタマクラの毒性は軽い方で、卵巣や精巣には毒を持たず皮膚だけの強毒が特徴だ。多くの猛毒フグを差し置いて、何故このような不本意な名前を付けられたのかは分からない。言われなき呼び名のおかげで、釣り人たちからも忌み嫌われており可哀そうだ。名前は本来、分類するためのラベリングに過ぎないのに、中身にまで影響を及ぼすことがあるようだ。

閑話休題ーマダラ模様の科学

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これまで数回、魚たちの多様で不思議なデザインを見てきたが、生き物のマダラ模様や縞模様がどのようにしてできるのかについて、科学者たちの興味深い見解を紹介しよう。今から80年程前、日本のある物理学者と生物学者たちの間で「キリンの斑」に関する大論争(大喧嘩)があった。ことの発端は当時、理化学研究所の寺田(寅彦)研究室に属していた平田森三氏が「キリンの斑模様について」と題する論文を岩波書店の「科学」に掲載したことから始まった。彼は自らの研究テーマであるガラスや粘土等の「割れ目の形態学」を応用して、動物や植物の斑模様がどのような要因にて現れるのか、大胆な仮説を提示した。キリンの斑模様は、田んぼの表面が乾いた時にできる「干割れ」とよく似ており、キリンの胎児が成長するプロセスにおいて、干割れと同様の現象が起きている可能性がある。すなわち内層部の太り方が激しくなると、表層部が四方八方に引っ張られる力を受けてヒビ割れができるという原理だ。
この論文に当時の生物学者たちが噛みついた。生物学主流の見解に反するということもあっただろうが、学問領域の門外漢による侵犯を許さないとの感情的な側面もあったようだ。よくある「素人はでしゃばるな」という話だ。生物学と物理学の関係は、今の時代においても「生物」を「無生物」と同じ次元で考えてもいいのか否か?という奥の深い問題を抱えている。この「キリンの斑論争」に決着をつけた人物が、さらに門外漢の数学者だったことも興味深い。英国の暗号解読や計算機科学で有名なアラン・チューリングがその人だ。彼は反応拡散理論を用いて、化学反応が作り出す波(チューリング波)が生物の皮膚模様を形成することを証明した。チューリング方程式の値を変えるだけで、キリンやヒョウやシマウマの模様をコンピューターで描き出すことができる。それでもその後長い間、生物学者たちはこの理論を無視し続けた。いずれ別の機会にチューリング波の存在証明に取り組む近藤滋研究室(大阪大学大学院生命機能研究科)について紹介したい。生物学と物理学の融合を目指した「生物物理学」(Biophisics)の研究成果も興味深い。いつか将来、「モノ」と「イノチ」を扱うサイエンスが、過去の機械論的呪縛から解き放たれる時代が訪れるかもしれない。

キッズの親も見たい方の為に

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前回ブログのキッズと見較べてもらえるように、大人になった姿を紹介する。幼かった頃のミナミハコフグの愛くるしい水玉柄、サザナミヤッコの美しいストライプ模様、イロブダイの紅白ツートンカラーは、成長とともにすべて消え去ってしまった。まるでメルヘンの世界がリアリティの世界に変わったかのように。その代わりに、過酷なサバイバル競争に勝ち残った自信と逞しさ、大きな体躯の堂々たる貫禄、経験に裏打ちされた大人の知恵と風格を身に付けたようだ。
このキッズ3種は観賞魚としても人気がある。ともすれば幼魚の間は可愛がるが、見た目が地味な成魚になってしまうと飼育を放棄する愛好家もいるようだ。生き物の一種である自分たち人間も同じことだろう。誰しも齢を重ねることで、失うものと得るものがある。偶々、今日は敬老の日。幼魚と成魚の異なる姿を、自らに重ね合わせて考えてみよう。

幼い魚もオシャレに着飾って

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ベストドレッサー賞の最終回は、可愛らしいキッズコレクションを紹介しよう。人も魚もどんな生き物も、幼い子供たちは魅力的だ。先ず水玉キッズのミナミハコフグだ。黄色い箱型の体一面に黒のドットが散りばめられている。何故、水の抵抗を受けにくい流線形ではなく箱型なのか、不思議な形の魚だがとにかく可愛い。縞々キッズにはサザナミヤッコの幼魚を推そう。キンチャクダイの仲間に共通する特徴だが、成長につれて不可逆的に変化し続ける縞模様はまさにアートの世界だ。二色キッズはイロブダイのヤングが相応しい。何ともおめでたい紅白のツートンカラーだ。オオカミに食べられそうになった赤ずきんちゃんのイメージが浮かんでくる。
実は魚の世界では、まったく別種と思っていた魚が親子だったりすることがよくある。幼魚が成魚になると劇的に大変身するということだ。今回のキッズ3種と並べて実際の親の姿を見較べたら、きっと驚くことだろう。海の中の厳しい生存競争に打ち勝つために、特にひ弱な幼少時代は、大人と異なる容姿の方が有利な選択なのかも知れない。幼魚はある種の擬態能力を用いて、捕食者から自らの身を守っている。食べられないもの、食べても美味しくないものに見えるように。あるいは、敵ではなく味方の魚に見えるように、長い年月をかけて自らの姿形を選び続けてきたのだろう。魚キッズのオシャレなデザインには、そんな進化の歴史が秘められている。

ベストドレッサー番外その2

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番外編その2はヒョウ柄だ。世の中では大阪のご婦人方が好まれるファッションと言われている。ヒョウ柄のデザインを装う生き物は、陸上のヒョウモントカゲやヒョウモンチョウの他、海の中にもいる。最初にヒョウモンオトメエイを紹介する。英名はHoneycomb stingrayで蜂の巣模様のように見られているが、和名はヒョウモンだ。マダラトビエイの水玉模様も美しいが、こちらのヒョウ柄も劣らない。2番目はイシガキダイだ。イシダイとともに磯釣りの王者とも言われる高級魚だ。名前の由来は石垣を積んだような模様から来ているが、やはりヒョウ柄の方がピッタリだろう。
ラストはフグ科の中からヒガンフグを選んだ。水産業界では密かに、トラフグにも負けない最も美味なフグと言われているそうだ。勿論、青酸カリの1000倍と言われる猛毒テトロドトキシンの持主なので、調理は専門家にお任せするしかない。名前の由来が面白い。春のお彼岸頃によく獲れるからと言う説と、食べると彼岸(あの世)に逝くと言う説があるが、後者の方がもっともらしい。フグ科には他にもユニークな仲間がいる。いずれ紹介したいシッポウフグもその一つだ。七宝焼に見立てられた網目模様が特徴のフグだが、例の「海中のミステリーサークル」で一躍注目を集めた。

ベストドレッサー番外その1

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前回までの3カテゴリーで、選に漏れた魚種の中から番外編を紹介したい。先ずはハゼの研究で著名な天皇陛下が命名されたニチリンダテハゼから。透明感あるボディーに黄色の横ストライプと、目立つトレードマークの日輪のような第一背ビレが特徴だ。日輪の中の黒い目玉模様(眼状紋)が、捕食者に睨みを効かせている。2番目のスミレナガハナダイも面白い魚だ。やはり雌性先熟型で性転換するが、オスに転換した個体のデザインチェンジがユニークだ。体色がメスのオレンジ色から濃いピンク色に変色し、さらに特徴的な紫色の四角形の紋章が体側に描き出される。このデザインなら即座に誰がオス(ハーレムオーナー)か見分けがつく。ちなみにダイバー達は、スミレナガハナダイのオスを「サロンパスくん」と呼んでいる。
ラストは不思議なシースルーファッションだ。その名もスカシテンジクダイ。頭部と胸部以外が骨まで透けて見える姿に驚かされる。高知県の高級食材で知られる「のれそれ」(アナゴの幼魚)も透明な魚だが、スカシテンジクダイは成魚になっても透明のままだ。生物学的には、体細胞に色素胞を持たない魚種と言うことだが、何ゆえの選択だろうか。透明であることのメリットが何かあるはずだ。透明であれば、あらゆる背景の中に溶け込めて身を隠し易くなること、加えてどのような光でも吸収・反射でき、変幻自在な体色を操れること等、スカシテンジクダイの身になって想像して見ると面白い。

ツートンカラーの美を楽しむ

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水玉模様、ストライプ柄に続いて、ツートンカラーのファッションを楽しもう。最初にその名もズバリのソメワケヤッコを紹介する。体色が 黄色と紺色に染め分けられ、そのコントラストが美しい。ソメワケヤッコも雌雄同体で性転換するが、クマノミとは逆に雌性先熟型なので、産まれた時は全員メスで生育する。群れの中で最も体が大きい個体がオスに転換する仕組みだが、これはすなわち「オスがハーレムを持つ」と言うことで少々羨ましい。次のお勧めはクロユリハゼだ。普段よく見かけるハゼは地味なイメージだが、海の中には意外とオシャレな仲間がいる。上着は青みがかった白色で、ボトムは黒系グラデーションのデザインだ。ヒレを全開した姿は、昔の袴姿の女性のように清楚で上品なイメージを与える。
同系統のツートンカラーで是非とも紹介したい魚はアケボノハゼだ。クロユリハゼと同様にハゼの名前を持っているが、ハゼ科とは異なるオオメワラスポ科に分類される。実はこの両者には深潜りしなければ会うことができず、ダイバーにはそれなりの技量が求められる。アケボノハゼのデザインは、白と紺の基調色に鮮やかな赤色が加わり、なおさら美しさが際立つ。ちなみに標準和名アケボノハゼは、皇后陛下の美智子様が提案されて天皇陛下が命名された名前だ。と言うことからも、アケボノハゼのファッションセンスに、より一層気高さを感じるのかも知れない。

ストライプ柄のベスト3選定

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水玉模様に続いて、ストライプ柄のデザインから選ぼう。最初に「海の貴婦人」と言われるハナミノカサゴを推薦する。出会った瞬間、紅白歌合戦で見た某有名歌手のド派手な衣装を彷彿させる。見た目の艶やかな容姿に魅せられるが、実は危険な魚なので近づかない方がよい。背ビレや尾ビレ等に毒棘があり、油断して刺されると激しい痛みに襲われ、患部が赤く腫れ上がる。「綺麗な○○にはトゲがある」の教訓通りだ。次のお勧めはニシキヤッコにしよう。キンチャクダイ科の仲間には、ロクセンヤッコやタテジマキンチャクダイ等のストライプ柄の美しさを誇る魚が多い。その中でもニシキヤッコの縞模様は、英名Royal Angelfishと言う名前に相応しく雅やかで美しい。黄色の体表の上に濃い青色に囲まれた白の縞模様が特徴で、昔は着物の黄八丈に例えて「キハチジョウ」と呼ばれていたようだ。
ラストにヒレナガネジリンボウを紹介する。シンプルなストライプ柄だが、理髪店のシンボルマークのような螺旋縞がユニークで面白い。体表に螺旋状の縞を描く表皮細胞の作用機序は?「生き物のデザインの不思議」は限りなく続く。ネジリンボウはハゼ科の仲間で、海底の砂地にテッポウエビと同居生活を送っている。捕食者から逃れるために、エビが掘った穴をシェルターに利用し、逆に視力が弱いテッポウエビが穴から出る時は、頼もしい警護者として危険の接近を知らせる役割を担う。ここでも生き物同士の「麗しくも賢い相利共生」を見ることができる。

魚のベストドレッサー賞は?

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南の海に潜ると、魚たちの個性豊かな美しいファッションが楽しめる。マリコレ(Marine Collection)と勝手に名付けてみたが、魚種それぞれの多様な色彩・図柄を競い合うように見せてくれる。中でも際立って人気がある水玉模様、ストライプ柄、ツートンカラーの各カテゴリーごとに、ベストドレッサー候補を選んでみた。草間彌生さんに選んでもらった方が良いのかも知れないが、先ずは定番の水玉模様のベスト3を。大型魚の中からはマダラトビエイだろう。サンゴ礁の海を体長2〜3mの大きな体で、まるで空を飛んでいるかの如く優雅に泳ぐ姿はとても美しい。特に大きな群れを組んだ編隊飛行は、三角翼のステルス戦闘機のように勇壮な光景だ。中型魚ならモンガラカワハギを推薦したい。見れば見るほど不思議な魚だ。背中は網目で腹部は水玉模様、頭部は目出し帽らしき被り物と朱色の口元、尾ビレ近辺の複雑な配色を見るたびに疑問が湧いてくる。長い進化の過程で、このような色彩の組み合わせや図柄のレイアウトを選ぶに至った意味は何なのか???
考えても分かりそうもない時は、「あるがまま」に感じとるしかない。モンガラカワハギの奇抜なファッションは、その気性からも類推して、ヤンキー系のキャラクターを象徴化していると見立ててみた。小型魚のイチ押しはマンジュウイシモチで、どこから見てもコスプレ系だ。ダイバーからは「イチゴパンツ」と呼ばれ、メルヘンチックな可愛らしさで愛されている。英名はPajama Cardinalfish。確かにパジャマ姿をイメージさせるデザインだ。ちなみにオスは卵が孵化するまで、口内保育で育てる役割を担う。捕食者から卵を守るためだ。見た目は気楽な「お伽の国の住人」でも、現実の世界はそうもいかないようだ。

閑話休題ー自然の伝言を彫る

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沖縄滞在中に北谷町美浜にある「ボクネン美術館」を訪ねた。伊是名島出身の版画家、名嘉睦稔(なかぼくねん)のギャラリーとして知る人ぞ知る存在だ。今回訪れた時には「海に還ろう」をテーマとした展示会が開かれていた。沖縄の海はその美しさの魅力だけでなく、古から島に暮らす人々の生活を支え、文化を育んできたかけがえのない原郷だ。「生命のふるさと」である海を題材に、ボクネン独特の眼差しで描いた作品群は、観る人に遥か遠い昔の「懐かしい記憶」を呼び覚ます。彼の版画技法はユニークだ。原画を描かずに版木を彫る。それもものすごいスピードで、一気呵成に彫り進めていく。彫り始めた時から、左右反転の構図も含めて完成作品のイメージが頭の中に出来上がっているらしいが、並の人にはできない技だ。画材に月桃紙を使うのも沖縄スタイルだが、裏手彩色を選択したこともボクネンの強いこだわりだ。
世の中には、どうしても言葉で表せないものがある。絵にも彫刻にも写真にも言葉は一切ない。森羅万象の美しさに感動し、大自然の摂理に畏敬を感じた時、人間は言葉の限界に気づく。オーストリアの哲学者、ヴィトゲンシュタインは「語り得ることは明瞭に語られ得るが、言い得ないことについては沈黙せねばならない」と書き残した。人間には本来、眼にも見えず、耳にも響かず、言葉にできない世界を知覚できる力が備わっていたはずだ。その能力が衰えつつある今、ボクネンのナイーブな感性は、大自然のメッセージを伝え残すために、版画に彫り刻むことを選んだ。