魚の群舞が見せる見事な秩序

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海の中では、息を飲むような壮大な光景に出会えることがある。数千、数万の魚の群れが織りなす見事な群舞だ。一糸乱れずに球状や渦巻状に形を変えていく行動は、捕食者から身を守るための集団防衛策だが、あれ程の大集団にも拘らず、どうして魚同士が衝突したり、速度や方向がバラバラになって混乱しないのか不思議だ。人間社会であれば某独裁国家の軍隊行進やスポーツ祭典のマスゲームを連想するが、誰か指揮命令者がいない限り統制できるはずがない。以前のブログでも紹介した「ホタルの同期現象」や「アリの集団行動」、いずれアップする「渡り鳥のV字型飛行」と同様に、自然の生き物は言葉以外のコミュニケーション手段を使うことができる。
魚にとっては、第2の眼であり第2の耳である「側線器官」がそれだ。魚の側線と感覚受容体は、高感度の圧力センサーとして水振動の微かな動きや流れ、その強弱や方向等を素早く感知する。周囲の魚の動きと巧みにシンクロする個体の振舞いの連鎖的集合が、見事な集団秩序ー群知能を生み出す。この魚類や鳥類の群知能を応用したセンシング技術に注目して、ある自動車メーカーは「周囲と協調してぶつからないロボットカー」の開発に取り組んでいる。レーザー反射によって魚の側線感覚を模し、魚群走行の3つのルール(衝突回避、並走、接近)を組み合わせてロボットカーに実装したとのことだ。早期の実用化に期待したいが、冷静に考えてみると問題の本質は「周囲との協調が苦手」な運転する人間にあるようだ。

海に暮らす生物の特異な能力

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前回の続きで、写真は白線数の順番でハマクマノミ、クマノミ、カクレクマノミを紹介する。クマノミの英名はanemone fish。どうしてアネモネの花と名付けたのかと思っていたが、共生しているイソギンチャクが、sea anemoneだと知って得心した。共通の名前を持つクマノミとイソギンチャクは、「相利共生」のモデルケースだ。刺胞動物のイソギンチャクは、触手の刺胞で近づいてきた魚を麻痺させて餌にするが、クマノミにはその武器が通用しない。クマノミの皮膚から分泌される粘液が刺胞の毒を無害化すると言われており、この能力によってクマノミは、イソギンチャクを敵の襲撃から逃れるためのシェルターにしている。逆にイソギンチャクもメリットを得ている。クマノミは、餌になる魚を引き寄せてくれたり、時には貝を届けてくれたりもする。また移動が不自由なイソギンチャクにとって、周りを泳ぎながら海水を撹拌し、排泄物を搬出して居住環境を快適にしてくれるクマノミは、とても役に立つバートナーに違いない。
もう一つ、クマノミには種の存続のために付与された特異な能力がある。雌雄同体で性転換することだ。クマノミは全員がオスで生まれ、成長する過程で群れの中の最も体が大きい個体がメスになって産卵する。そのメスが死んだ時には、次に大きいオスの出番だ。魚類の多くが保有する特徴だが、同居する群れの状況に応じてホルモンのバランスを調整し、雌雄性をコントロールする生殖の仕組みは、実に興味深い。ヒトは受精後約7週間までは全員がオンナだが、性染色体で雌雄性が決められているため、発生初期にオトコが分化する。そうなると「ヒトの基本仕様」はオンナと言うことなので、オトコは伴侶に頭が上がらないと言う現実も、生物学的に首肯できる。

鮮やかな色彩を競う海の風景

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世界には約800種のサンゴが棲息しているが、そのうち沖縄の海では約200種に出会える。海の生き物たちに快適な住処や安全な隠れ家、食物連鎖による捕食機会を与えてくれるサンゴ礁の海は、まさに「魚の楽園」だ。地上とは別世界の美しい海に潜ると、色とりどりの魚の群れが出迎えてくれる。黄色の代表はチョウチョウウオが相応しい。サンゴ礁の周りを泳ぐ姿が、お花畑をヒラヒラと舞う蝶のように見えることからのネーミングだ。日本近海では約50種のチョウチョウウオの仲間が棲息しており、それぞれの個性的なデザインが楽しめる。青が際立つ魚はナンヨウハギだろう。黄色の尾ビレと数字の6のように見える黒縞模様とのコントラストが絶妙だ。ナンヨウハギは観賞魚としても人気があるが、やはり海中で目の前を泳ぐ姿がとても美しい。
赤の代表はクマノミだ。ディズニー映画のおかげで一躍有名になったが、沖縄の海では典型的な6種のクマノミすべてに出会える。ダイバーは「イチハマ・ニクマ・サンカクレ」と唱えながら名前を覚える。白線1本がハマクマノミで、2本がクマノミ、3本がカクレクマノミということだ。単に可愛いだけでなく、クマノミの仲間とイソギンチャクとの「相利共生」も興味深い関係だ。ちなみにナンヨウハギもディズニー映画の出演者で、ニモを探す母親のマーリンと一緒に旅をするドリーは、ナンヨウハギをモデルとした。

美しいサンゴ礁の海に潜って

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さあ!美しい海の生き物たちに会いに行こう。琉球列島の海に潜れば目の前にサンゴ礁の「森の風景」が拡がる。テーブル状や枝状のサンゴ、花のような姿のサンゴ等、自然の多彩な造形美に目を奪われる。植物と思われがちなサンゴだが、実はクラゲやイソギンチャクと同じ仲間に分類される刺胞動物の一種だ。サンゴの特徴は、ポリプと呼ばれる個体が大量に集まった群体を形成していること、そしてポリプの内部に単細胞藻類の褐虫藻を取り込んで、共同生活を送っていることだ。家主のサンゴは自らの触手で動物プランクトンを捕食しているが、同時に店子の褐虫藻が光合成で作った栄養成分を受け取っている。またポリプの中で増殖する褐虫藻は、サンゴの代謝産物である二酸化炭素やアンモニア等を受け取って、自らの光合成に役立てている。
このサンゴと褐虫藻の共存共栄の関係、いわゆる「相利共生」は、両者相互の便益提供にとどまらず、地球の生態系全体にとっても大切な価値をもたらす関係だ。陸上の植物を超える高い二酸化炭素吸収率と海水を浄化する働き、自然の防波堤の機能、海の生き物を守り育むシェルターの役割等は、異種間の両者コラボが作り出す価値だ。ダイバーとしては、世界の海で問題視されているサンゴの白化現象も心配なのだが、一人の人間としては「ヒトという生物種」の相利共生意識の希薄化について、気になることが多い。人間は自らの独善的で利己的な振舞いを省みて、生き物の賢い互恵関係から学んだ方がよさそうだ。

目玉模様のデザインが好き?

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沖縄では目玉模様(眼状紋)の翅を持つ蝶をよく見かける。タテハモドキやリュウキュウヒメジャノメがその代表だ。蝶以外の昆虫でも同様だが、目玉模様の役割は、フクロウやヘビの眼に似た模様によって天敵の鳥類を怯ませるためと言う説と、襲われた場合でも擬似の眼をダミーにして本物の眼を守るためと言う説がある。いずれにしろサバイバルに役立つカムフラージュ技術だ。タテハモドキは、英名でPeacock Pansy(孔雀模様のスミレの花)と言われているが、孔雀の目玉模様との類似性があるのだろうか。
かのダーウィンは、孔雀の羽の美しさを褒め称え「どんな装飾品もこの美しさにはかなわない」と書いた。孔雀のオスの魅力的な目玉模様は、メスの関心を引きつけるためで、天敵からの防御目的はないらしい。目玉模様を持つ生き物は魚類にもいる。マトウダイやカニハゼ、イッテンチョウチョウウオがその代表例だ。海の中でも目玉が目立つので、すぐに見分けがつく。
ちなみにイッテンチョウチョウウオの英名はTeardrop Butterflyfishだが、確かに目元には涙のような模様が見える。学者に命名された情感に乏しい和名も、例えばナミダメとかラクルイチョウチョウウオに改名したらどうだろうか。念には念を入れてか、この魚は本当の目玉を黒い縞模様で隠している所も面白い。魚の目玉模様は昆虫と同様に、捕食者を驚かせて襲撃から逃れるためと言われている。それぞれ目的は違っても、生き物たちは目玉模様のデザインがお好みのようだ。

閑話休題ー南の島々の星文化

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八重山諸島を旅する目的には、興味深い生き物との出会いと、もう一つの大きな楽しみがある。満天の美しい星空だ。天の川もはっきり見え、夜空にはこんなに沢山の星が輝いているのかと息を飲むほどに美しい。ハワイ島マウナケア山頂の星空も素晴らしいが、まったく引けを取らない。石垣島には、日本最南端の天文台があり「むりかぶし(昴の意味)望遠鏡」が、宇宙観測上の重要な役割を担っている。星座の数は全部で88あるが、この島では84星座を見ることが出来るとのことだ。八重山には昔からの「星の文化」が残っている。四季の変化に乏しい南の島々に暮らす人々にとって、星の位置の観測は漁業や農業に欠かせない重要な情報だった。1年の移り変わりの中で、いつ種を撒き、いつ収穫するかを、今でも各島に残る「星見石」で計測して決めていた。
前回のブログに書いた竹富島に伝わる「星砂の由来」は、大蛇に喰い殺された「星の子供たちの亡骸」が、東美崎の浜辺に打ち寄せられてきたと言う伝承だ。島の御嶽(うたき)では、今でも毎年の祭りの時、新しい星砂を香炉に納めて、星の子供たちが天に帰れるよう祈っている。だから夜空の母親星の周りには、数多くの星の子供たちが輝いている。「星の文化」の島々、八重山ならではの民話だ。

八重山で会えるレアな生き物

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マングローブの干潟には、魚なのに海中が大の苦手な生き物がいる。ミナミトビハゼは、カエルのように目が飛び出ており、干潟の上を胸ビレで歩いたり、尾ビレを使ってジャンプしながら移動する。有明海のムツゴロウも同じ仲間で、エラ呼吸だけでなく皮膚呼吸の能力を持つ魚類と両生類のハイブリッドのような存在だ。西表島には、大きくなり過ぎて身の丈に合う貝殻を持たないヤドカリの仲間、ヤシガニが住んでいる。夜行性なので、夜中の草むらやアダンの実を食べに木に登っている所を捕まえる。見た目はかなりグロテスクだが、地元の人々にとっては、とても美味な高級食材だそうだ。但し、鋏脚のパワーは相当強力で、指を挟まれたら切断されてしまうので要注意。
八重山の星の砂は有名だが、ホシズナ(星砂)はサンゴ礁海域に生息するれっきとした生き物であることは、あまり知られていない。アメーバのような単細胞生物の有孔虫の外殻で、死んだ後に残した殻が砂浜に堆積して星の砂になる。竹富島には、星砂の由来について伝承されてきた民話が残っている。

蛇に変身する幼虫の天敵対策

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翅に蛇の頭をデザインしたヨナグニサンを上回る変身術を身につけた昆虫の仲間がいる。同じヤママユガ科に属するシンジュサン(神樹蚕)は沖縄から本州に生息しているが、両翅の蛇の姿は、さらにリアルだ。蝶や蛾は天敵から身を守るために巧みに擬態するが、その能力は幼虫の時代から所持している。天敵の鳥に襲われないように目立たない姿を選ぶのも方法だ。アゲハチョウの幼虫などは、遠くから見ると「鳥の糞」とそっくりに見える。空腹でエサを探している鳥も、自らの糞には興味を持たないだろうと言うことだ。
その反対にベニスズメガの幼虫は、強烈に目立つ姿を選んだ。何と!蛇そっくりに変身する。平時の姿もそれらしいが、危機が迫ると頭部が三角形に変形して蛇の顔になり切り、天敵を怯ませる。人間の世界でも、子供たちを誘拐する卑劣な事件が時々起きるが、残念なことに人間の子供には、生き物の幼虫のような護身術は与えられていない。

東洋のガラパゴス、西表島へ

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手付かずの大自然が残されている西表島は、石垣港から40-45分の船旅だ。沖縄本島の次に大きな島だが、人口は2000人足らずで亜熱帯ジャングルのような山地が島全体の90%を占めている。この島にも希少で興味深い生き物が数多く住んでいる。イリオモテヤマネコに遭遇するのは至難だが、同じく国の特別天然記念物のカンムリワシに出会える機会は珍しくない。鷲や鷹の猛禽類の視力には恐れ入る。彼らの視細胞数は約150万個あり、人間の20万個に較べ8倍の視力を持つ。高い空から獲物を狙う生き物に与えられた天賦の能力だ。マングローブの干潟にいるミナミコメツキガニの大群も必見だ。浜辺に青い絨毯が敷かれたようにタテ歩きでワラワラと行進する光景は、SFのロボット軍団のようで壮観だ。
世界最大の蛾と言われるヨナグニサンの翅の模様には驚く。翅の先端に蛇の頭をデザインする発想がすごい。捕食者から身を守るための方法を、何時どうやって生み出したのか。突然変異と適者生存のダーウィン進化論だけで片付けていいのだろうか、ふと考えてしまう。

石垣島で出会える生き物3選

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「また石垣島に来たんだ」と感じさせてくれる印象的な生き物がいる。先ずは島内をドライブすると必ず出会う可愛らしいクイナ。石垣のクイナは飛べるはずなのに突然、目の前の道路を横断するので運転に注意を要する。海辺を散歩するとヤドカリたちが歓迎してくれる。それも数えきれないぐらいの大群だ。子供たちは大喜びで捕まえるが、時には指を挟まれて痛がる。オカヤドカリは国の天然記念物に指定されており、捕獲の制限とともに、島外持ち出しは禁止されている。うっかりしてお土産に持ち帰ろうとしても、空港のセキュリティチェックで確認される。
島の日常生活で最も身近な生き物は、ヤモリだと思う。都会ではなかなか出会えないが、島では人間と同居しているかのようだ。見た目が気持ち悪いと嫌う人もいるが、昔から「守宮」「家守」と言われており、幸福を呼ぶ縁起のよい生き物なのだ。ハワイでは「ゲッコウ」と呼ばれ、ペットのように可愛いがられている存在だ。実は、スパイダーマンのように壁や天井を自在に歩き回るヤモリの足の仕組みは、世界の接着技術者たちのホットな研究対象だ。ファンデルワールス力を応用して「ヤモリテープ」の開発に成功した企業もあり、人間社会に貢献するヤモリをもっと見直してあげてもいいだろう。