閑話休題ー虫愛づる姫君の話

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平安時代の十一世紀に書かれた「堤中納言物語」の中に、虫愛づる姫君の話がある。人々は蝶が美しいと褒めるが、実はイモムシや毛虫から蝶が生まれ出る。だから姫君は幼虫を飼って、蝶に変わっていく様子を観察する。川端康成は、この作品について「事物をその生成発展の過程において、実証的に観察しようとする自然科学に通ずる方法」と指摘した。千年前の日本に、美しい蝶を蝶たらしめる源は、すべてイモムシにあると気がついた姫君がいたとは驚きだ。
幼虫のイモムシ・毛虫は、葉っぱを食い荒らしたり、毒がある棘で刺したり、人間からはあまり好まれていないが、蝶や蛾は植物の受粉に役立っており、地球の生態系に欠かせない重要な存在なのだ。明日からは沖縄を旅する。美ら海沖縄の美しい自然と生き物に出会うのが楽しみだ。

蛍は何故、一斉に光るのか?

生き物の世界には「同期現象」という不思議な力がある。スティーヴン・ストロガッツは著書「SYNC」に、無数のホタルが完璧にシンクロして光を点滅させる謎、指揮者がいなくても自然に生まれる秩序の発生メカニズムについて描いた。ホタルに限らず、カエルやコウロギの一斉唱和や魚の大群の見事な旋回運動等、生き物の集団行動は、驚くほどシンクロしている。近年、同期現象の研究は領域横断的にまとまり始め、「結合振動子」の存在が解明されつつある。光を通じてコミュニケーションを取るホタル、電流を交換し合う心臓のペースメーカー細胞等の生物振動子にとどまらず、惑星やレーザー、電子の非生物振動子まで、自律的な周期を持ち、秩序ある反復運動を生み出している。
生き物の集団の同期現象が、ホタルのように平和で美しい光景であればよいが、なまじ知恵を持った人間集団の同期現象は時折、好ましくない現実をもたらすこともあるようだ。

巧みな擬態能力を持つ生き物

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生き物の擬態能力、隠れ身の術はサバイバル競争に役立つ。周囲の景色に巧みに紛れ込むことで、外敵の攻撃から身を守ることができ、逆に自分が狙う獲物に気付かれずに近づくことができる。木の枝と見分けがつかないナナフシ、枯れ葉にそっくりな羽を持つコノハチョウやコノハムシ、育つ場所の環境にカタチと色彩を同化させてしまう幼虫等、見事な変身テクニックの持ち主だ。昆虫以外でも、ヒラメやタツノオトシゴのように海中にも、カエルやヤモリのように陸上にも巧みな擬態を駆使する生き物がいる。
生命進化の歴史は何故か、人間の身体には擬態能力を与えなかった。確かにヒトは、体の擬態はできないものの、心の擬態はどうだろうかと考えてみたくなった。

地下で共同農園を営むアリ達

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中南米に生息するハキリアリは、キノコ栽培アリとして知られている。NHKの「ダーウィンが来た!」でも放映され、高度なコロニー社会の仕組みに驚かれた方は多かっただろう。葉っぱを巧みに切り取るテクニック、農園に運ぶ秩序だった行列を見ているだけでも楽しいが、食糧の自給自足を目的とする見事な共同ワークには驚愕する。効率よくキノコ栽培を行うために、収穫、運搬、道路整備、防御、農地開拓等を、30種もの専門職の役割毎に高度な分業体制を作り上げている。また栽培しているアリタケや飼育しているアブラムシとの相互共生も、ハキリアリの知恵と工夫から成り立っている。天敵の襲来や豪雨の被害にあっても、仲間同士で力を合わせて素晴らしいチームワークを発揮する。それも誰からも指揮命令を受けていないのにである。
人間の組織では、管理する人とされる人の上下の階層が存在する。指令塔がなくても秩序を維持できるコミュニティ社会がとても羨ましい。

高貴で慈悲深く愛他的な存在

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「青い鳥」を書いたメーテルリンクは、文学者であると同時に優れた哲学者、科学者でもあった。彼は著書「蟻の生活」の中で「蟻は地球上で最も高貴で慈悲深く、献身的で愛他的な存在である」と書いた。集団で社会生活を営む蟻たちは、巣の建設と防衛、食糧の調達と分配、幼虫の世話等、秩序ある共同作業を行っている。繭を守護する働き蟻は、後脚二本を切り落とされても幼虫を安全な場所に移すまでは活動をやめない。その愛他的行動は、まるで各自が全体と一心同体のように、その義務を果たす。
意識と幸福の重心は、指導者の誰かにあるのではなく、まるで一つの細胞のように個がその部分を担う全体の中で活動する。低次元の権力争いに明け暮れる人間社会よりも、蟻のコミュニティの方が余程優れているようだ。

羅針盤なし長距離飛行する蝶

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渡り鳥ならぬ「渡り蝶」は、日本のアサギマダラだけではない。北米大陸に生息するオオカバマダラは毎年、米国とカナダ南部からメキシコ中部にある山岳地帯の越冬地まで数千キロを飛行する。航空地図も羅針盤も持たずに、どうやって辿り着くだろうか。米国マサチューセッツ大学の生物学者チームは、オオカバマダラが脳内にある太陽コンパスに加えて、地磁気コンパスを使っている証拠を発見し、研究論文を科学ジャーナル誌に掲載した。
この蝶の触覚には、感光性の磁気センサーが内蔵されており、磁場を利用して進路を決めているということだ。地磁気ナビゲーションの能力を持つ生き物は、蝶以外にも鳥類、爬虫類、両生類、ミツバチやシロアリ等の昆虫にも及ぶと考えられている。人間は文明の利器のナビゲーション機器なしでは、遠くのどこにも行けないが。

虫たちの驚くべき能力と特技

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昆虫には人間など及びもつかない特別な能力がある。五感で見れば、人間の何万倍ものレベルで匂いやフェロモンを嗅ぎ分ける臭覚、紫外線を識別できる視覚、触角や前足で味を感じる味覚、温度や圧力センサーを備えた触覚、超音波を発信して障害物を察知する聴覚等、高度な能力を保有している。さらに羨ましい能力としては、隠れ身の術を駆使した擬態能力、鳥のように大空を飛べる移動能力がある。海を渡る蝶として知られているアサギマダラは春と秋の2回、沖縄や台湾と本州の間、1000kmにも及ぶ長距離を飛行する。
あの小さい体の何処に驚くべきエネルギー変換機能が備えられているのか、飛行中の睡眠はどうしているのか、興味は尽きない。虫の個体としての能力に加えて、蟻や蜂に代表される社会性昆虫のコミュニティの仕組みもとても面白い。

子供は何故、虫が好きなのか

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多くの子供たちは、夢中になって虫を追い駆けた思い出を持っている。養老孟司さんや日高敏隆さん、高桑正敏さんのように、大人になっても虫大好き人間は意外に多い。彼らは何故、昆虫が好きなのかと問われると困るらしい。
前回、地球上の生物種の数を紹介したが、実は種数NO1はダントツで昆虫だ。既分類の約125万種のうち、昆虫は約75万種を占めるとのこと。「数は力なり」だけではなく、環境適応型のサバイバル能力が優れているということだろう。たかが20万年前に誕生した現生人類よりはるか昔、4億年くらい前からの長い生命史を持つ昆虫に、人間が教えてもらうことは、沢山ありそうだ。素直な感受性が残っている子供たちは、「虫の面白さ」を純真な心で感じることができるのだろう。

地球に住む870万種の生き物

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この地球上には870万種の生物が存在するという国際研究論文がある。動物が777万種、植物が30万種、他の菌類や原生動物等を加えて数学的に予測した数値で、これまでで最も正確な予測と評価されている。実際に既に発見、分類されている数は125万種程度なので、約86%がまだ見つかっていない。宇宙の組成上、暗黒エネルギー73%と暗黒物質23%が未発見、未解明であることに重なって、未知の世界への興味は尽きない。
何はともあれ ”Sence of Wonder”の旅に出よう。美しいものは美しいと、不思議なことは不思議だと、子供のように感じたまま素直に受けとめよう。この旅のスタートは、まず「昆虫」から始めたい。